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水戸地方裁判所 昭和44年(わ)315号 決定

被告人 T・K(昭二八・二・六生)

主文

本件を水戸家庭裁判所に移送する。

理由

被告人は少年であるところ、

第一  昭和四四年七月○日午前一〇時ころA、Bとともに日立市多賀駅付近に遊びに出掛けた際、同所付近で自家用普通自動車(茨○・○・第○○○○号)を運転して来た友人のCに出会つたので、右自動車に同乗して、日立市内のパチンコ店や同市○○○町所在の○○レジヤーセンターに立ち寄る等して遊び回つているうち、便意を催し、そのためしかるべき場所を探す一方、そのころよりCに代り、Aが右自動車を運転して常陸太田市に通ずる県道上の○○○バス停留所の丁字路を左折し、○○部落に通ずる道路を運転進行し、同日午後七時ころ同市○○○町字○○×××番地先路上に至り、その場で車を止め、被告人およびCが用便をすまして同車内に立ち戻つた後、しばらく同所で休息していたところ、折柄同所を通りかかつた○内○子(当二一年)、○本○枝(当二〇年)の二人連れを認めたCが「あの女達車に乗せちやおうか」と言い出したことから、被告人およびA、Bも「乗せちやおう、乗せちやおう」と言つてこれに同調するに及び、同女等の意に反し同女等を右自動車内に連れ込み不法に監禁しようと企て、右A、B、C等と互にその意思を連絡し、Aが車を発進させて同女等に近寄り、A、Cにおいて同女等に対し交々「送つて行つてやるから乗らないか」等と同乗方を誘いかけ、同女等から「もうすぐ家だから歩いて帰る」と断られるや、なおも執拗に追いすがり、果てはAが右自動車を同女等の左側からその進路前方に斜めに停車させてその進路を閉塞したうえ、C、A、B等とともに車外に出、交々同女等の手を引つ張り、あるいはその身体を背後から押す等して同女等を同車の後部座席に乗車させると同時に自動車を発進させて同所を出発し、途中同女等が「降ろしてくれ」と哀願するのを無視して、それより同県多賀郡○○町大字○○字○○×、×××番地付近路上まで約二、二〇〇メートルにわたり、時速約四〇キロメートルで疾走し、その間同女等の脱出を不能ならしめ、もつて同女等を同車内に不法に監禁し、

第二  かくてAが、同所において右自動車の方向を反転させようとした際、その運転を誤り、車の左側の前後輪を該道路の側溝に落したため、C、B等とともにこれを引揚げようとしたものの、容易に引揚げることができなかつたところから部落民の応援を求めることになり、Aに言われて付近部落に赴く途中嫌気がさして引き返したが、その後その場にいた右○本○枝が「私が行つてくる」等と言い出し、右Cと相前後してその場を立ち去つた後、なおもその場で車の引揚作業を続けていたところ、同日午後八時ころAから右○内○子がその場から逃げ出した旨を告げられてともにその跡を追いかけ、同所より約二〇メートル離れた付近山林内で屈み込んでいる同女を発見するに及び、Aが「向こうへ行こう」と言いながらその手を引つ張り連れ戻そうとしているうち、同女がその場に倒れるや、俄かに劣情を催し、右Aと共謀のうえ、強いて同女を姦淫しようと決意し、同女に対しAにおいて矢庭にその上に馬乗りとなつて、その顔面を平手で数回殴打する一方、自らは同女のガードル、パンテイ等を引き下ろして下半身を裸にする等それぞれ暴行を加えて、その反抗を抑圧し、A、次いで自己の順に同女を強いて姦淫し、その際右暴行により同女に対し全治一〇日間を要する外陰部裂傷の傷害を負わせ

たものである。

右の各事実は、本件につき取調べられた各証拠によつて、これを認める。

しかして第一の事実は、各刑法第二二〇条第一項・第六〇条に、第二の事実は、同法第一八一条・第一七七条前段・第六〇条にそれぞれ該当する。

そこで本件被告事件につき、被告人を刑事処分に付するのが相当であるかどうか、さらに被告人の要保護性等につき検討する。

本件記録によれば、被告人は、肩書本籍地において、もと○○○運株式会社の従業員として働いていた父Iと母D子の四男として出生し、その後昭和三〇年一一月両親が本籍地の祖母の許に被告人等子供を残したまま、日立市△△△町に移り住むことになつたため、爾来祖母の許で成育し、その後弘前市立○○小学校三年生に在学中のころ、当時日立市内で運送業を営んでいた父Iの許に引取られることになつたので、日立市立○○○小学校に転じ、以来両親と生活をともにすることになつた。その後小学校を卒業し、同四〇年四月同市立○○○中学校に入学したけれども、学習成積は下の部類に属し、あまり芳しくなかつたが、同校二年生のころから時折り無断欠席する等学業を怠つて悪友と交わり、窃盗、恐喝等の非行を犯し、警察官に補導されるという有様で漸く問題行動が目立つようになつた。かくて同校三年に在学中の同四二年八月水戸家庭裁判所において窃盗保護事件で保護観察(水戸保護観察所)に付され、同四三年三月、同校卒業後、砕石工や荷造工となつたが、いずれも永続きせず、その後またも窃盗の非行を犯し、同年八月水戸家庭裁判所において、調査審判の結果、右窃盗保護事件については、従来の保護観察をそのまま継続することにして不処分となつた。そのほか被告人には同裁判所において審判不開始ではあるけれども、道路交通法違反の非行がある。しかるところ、またまた本件犯行を犯すに至つた次第であり、本件犯行が極めて悪質であり、被害の重大性、罪質および情状等に照し、水戸家庭裁判所が被告人に対して家庭裁判所の終局処分よりはむしろ刑事処分が相当であるとして本件を水戸地方検察庁検察官に送致する決定をなしたことも一応首肯しえられないでもないが、そもそも少年法が、少年の健全な育成を期し、非行少年に対しては、その性格の矯正および環境の調整に関する保護処分を行なうことを目的としていることにかんがみると、その処遇にあたり、保護処分とするか、刑事処分とするかは慎重にこれを考慮すべきことは論を俟たないところであり、それ故保護教育的見地から保護処分その他の保護的措置の効果が期待できず、刑事処分によつてのみ、かえつてその目的が達成しえられる場合において、はじめて刑事処分をもつて臨むという保護優先の原則に立つべきであると思考されるので、さらに、進んで、被告人の家庭環境、性格等について考察することにする。

父Iは現に日立市△△△町で貨物自動車三台を所有し運送業を営んでおり、月収三〇万円位もあつて、経済的にはゆとりがあるようではあるが、両親とも知性、教養が低く、被告人等子供の教育については無関心、無定見、放任的であつて、家族がそれぞれ互に勝手気ままに行動し、その間に連帯意識がなく家庭的雰囲気も認められない状況が窺われ、加えて長兄Y(当二六年)はブルドーザーの運転者として一応真面目に稼働しているものの、兄S(当二二年)は罪を犯して現に水戸少年刑務所に服役中であり、兄M(当一八年)も、砕石工として働いているが、現に保護観察中の身であるという家庭環境にある一方、被告人の性格は鑑別結果によると、自己顕示性が強く、知能は新田中式でIQ七二の限界級であり、自主性、自律性に乏しく、素直な面も認められるが他者追従的で意思薄弱な面が窺われ、そして被告人は本件犯行当時定職もなく無断親許を離れて友人宅を泊り歩く等して不良交遊を続け、かくて前記の性格傾向から積極的に成人共犯者に追従し、遂に本件犯行を犯すに至つたものであるが、未だ年齢わずかに一六年一〇ヵ月の年少少年であり、本件犯行後深く自己の行為を反省し、改悛の情が認められるし、水戸少年鑑別所における資質鑑別の結果によれば、被告人には積極的に指導助言を求めて更生の道を歩もうとする態度が窺われること等の理由から、特に被告人に対し収容保護の判定がなされていること、また精神状態も準正常であり社会生活を営むうえに何ら支障となる事由もないこと、被告人が現に保護観察中ではあるが、これまでに少年院へ送致される等収容保護の処遇を受けたことがないこと等諸般の事情を合わせ考えてみると、収容保護という強力な処遇方法により被告人の生活環境を整備するとともにその性格の矯正を図かり、更生させうる余地があるのではないかと思われる。それ故本件処遇にあたつては、刑罰を科する刑事処分をもつてその責任を追求するというよりはむしろ、この際少年であり、可塑性に富む被告人の将来を期待して健全な社会人に育成すべく、本件を家庭裁判所に移送し、適当な保護処分に付することが相当であると認められるので、少年法第五五条により、本件を水戸家庭裁判所に移送することとする。

よつて、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 高野平八 裁判官 佐野精孝 星野雅紀)

〔編注〕 受移送家裁決定(水戸家裁 昭四四(少)一六八九号 昭四五・一・一四決定 中等少年院送致)

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